喫茶店に滞在する適正な時間というのはあるのだろうか。
喫茶店に仕事を持ち込むこともあった私は、それについて気になっていた。
しかしこればかりは喫茶人たちの滞在時間を測るわけにもいかない。
なのでこれについては私の体感を記してみる。
たいていの喫茶店で、食べ終わった皿を下げるのは退店を促す合図ではないというのは連載の第一回で書いたとおりで、ごゆっくりどうぞという心遣いのひとつだ。
ではその”ごゆっくり”はどれくらいなんだろう。

私の肌感だけれど、コーヒーを飲み終わってからもしばらく滞在していると、なんとなく視線や気配を感じる。追加の注文はないだろうかというような視線だ。
どの店でもだいたいそんな感じを受けた。しかしどの店も明確な時間制限があるわけではない。
だから恐らくなんだけれど、コーヒー一杯を飲むのに”ちょうどいい時間”というのが滞在の目安なのではないだろうか。
温かいコーヒーはガブガブと飲み切ってしまうものではない。一口飲んで余韻が消えるころにもう一口、くらいのペースで飲む人が多いのではないだろうか。
そうやって飲み進めると早くて三十分、長くて小一時間くらいな気がする。甘い物や軽食などと一緒だともう少しかかるかもしれない。
なんとなくだけれど、それが喫茶店で過ごすちょうどいい時間なような気がする。
(もちろん人によって飲むペースは違うから、三十分、一時間というのは私の感覚である)

そしてなんといっても、喫茶店という場所は飲み物を飲みに行く場所である。飲み物を飲んでいる間、滞在していい場所なのではないだろうか。
その証拠に、飲み終わったカップを下げられることはない。食べ終わった皿は下げられるけど、飲み終わったカップはいくら時間が経っても下げられない。
これはやはり、飲み物と一緒に過ごす場所だからではないだろうか。
一杯のコーヒーに寄り添う時間を過ごす場所。
一杯のコーヒーが寄り添ってくれる場所。
明確な決まりはないけれど、そういった行間を汲み取るような曖昧さはとても日本人らしいなと思う。粋かどうか、野暮じゃないかどうかで振る舞う。
“日本らしさ”に良し悪しはあるだろうけれど、この粋を求める感覚は好きだ。
喫茶店の文化にはそんな粋な空気が根底に流れている。それが私は好きなんだろうと思う。